日が傾き、空気が少し涼しくなった夕方。人には歩きやすく感じられても、路面にはまだ昼間の熱が残っていることがあります。
犬との夏の散歩やお出かけでは、気温は重要な判断材料です。しかし、それだけで犬の負担を判断することはできません。
湿度、日差し、地面から受ける熱、犬がどれだけ動くか、そして体にたまった熱をどれだけ逃がせるか。それらが重なり、犬の体にかかる負担が変わります。
さらに、散歩や運動を終えたからといって、暑さによる負担がすぐに消えるとは限りません。
本記事では、犬の暑さを次の「熱の3つの流れ」に分けて考えます。
- 外から受ける熱
- 体内で生まれる熱
- 体外へ逃がす熱
この3つの流れを手がかりに、外出前から活動後まで、犬の負担をどう整えるかを見ていきます。
犬の暑さは「熱の3つの流れ」で考える
犬の体にどれだけ熱がたまるかは、外から受ける熱、体内で生まれる熱、体外へ逃がす熱のバランスによって変わります。
気温や日差し、熱を持った路面などは、犬の外側から加わる熱です。歩く、走る、引っ張るといった活動によって、体内にも熱が生まれます。そして犬は、主にパンティングによって、たまった熱を体外へ逃がします。
外から受ける熱が多く、活動によってさらに熱が生まれ、放熱が追いつかなければ、熱は体内に蓄積していきます。
暑さ対策とは、犬をただ冷やすことではありません。
熱を受けすぎず、生みすぎず、逃がしやすい状態を整えること。
これが、夏の散歩やお出かけを考える基本です。
外から受ける熱――気温、日差し、地面温度
天気予報の気温は、犬が実際に歩く場所の暑さを、そのまま示すものではありません。
犬は空気からだけでなく、直射日光や、熱を持った路面、周囲の建物からも熱を受けます。輻射熱とは、日差しや、熱くなった地面や壁などから伝わる熱です。
犬は人よりも地面に近い位置を歩きます。人の顔の高さではそれほど暑く感じなくても、犬の周囲には、路面から放たれる熱が残っていることがあります。
アスファルトに限らず、コンクリート、人工芝、砂浜なども、日差しを受ければ高温になる場合があります。地面の種類だけで判断せず、日差しの当たり方、地面の熱、日陰の有無を実際の場所で確かめます。
人向けの暑さ指数であるWBGTも環境を見る参考にはなりますが、犬の散歩可否を直接決める基準ではありません。[6]
見るべきなのは外気温だけではなく、犬がどこで、どのような熱を受けるのかです。
体内で生まれる熱――散歩、運動、興奮
犬に加わる熱は、周囲の環境から受けるものだけではありません。
犬が歩き、走り、泳ぎ、坂を登ると、筋肉の活動によって体内に熱が生まれます。暑い日の負担は、高温の場所にいることだけでなく、その環境で動くことによっても大きくなります。
英国の動物病院の記録を分析した研究では、確認された犬の熱関連疾患の74.2%が、運動に関連していました。[1]
英国の診療記録による研究のため、日本のすべての犬に同じ割合が当てはまるわけではありません。それでも、暑さの負担を考えるうえでは、環境だけでなく運動量も見る必要があります。
「何分歩いたか」「何km歩いたか」が同じでも、犬にかかる負荷は同じではありません。
落ち着いて歩く犬と、リードを強く引き続ける犬。平らな道と坂道。一定の速さで歩く場合と、走ったり止まったりを繰り返す場合では、活動の強さが異なります。
ドッグラン、ボール遊び、登山、水遊びなどでは、犬が興奮し、飼い主が想定する以上に動き続けることもあります。
犬が動きたがっていたとしても、熱による負担が小さいとは判断できません。活動意欲だけで判断せず、呼吸や動きの変化も合わせて見ます。
カニクロスに参加した犬を対象とした研究では、115件の運動後の記録のうち28件、24.4%で、運動終了後の最初の5分間に体温がさらに上昇していました。[2]
この研究結果を一般の家庭犬へそのまま当てはめることはできませんが、少なくとも、運動を終えた後も体温上昇が続く場合があることは確認されています。
活動を終えたことと、体が冷めたことは同じではありません。
夏のお出かけでは、滞在時間だけでなく、活動の強さも見ます。活動の計画には、動いている時間だけでなく、その後に回復する時間まで含まれます。
体外へ逃がす熱――パンティング、湿度、活動後の回復
体内に熱が生まれても、十分に体外へ逃がせれば、熱の蓄積は抑えられます。問題になるのは、熱を生む速さに、放熱が追いつかなくなることです。
犬は、人のように全身の発汗を主な冷却手段としているわけではありません。主にパンティングと呼ばれる浅く速い呼吸によって、口や呼吸器から水分を蒸発させ、熱を逃がしています。[5]
湿度が高い環境では水分が蒸発しにくくなり、パンティングによる放熱も働きにくくなります。
日本の夏が犬に厳しいのは、気温が高いからだけではありません。空気中の水分が多く、体にたまった熱を逃がしにくいことも関係しています。
風や空気の流れも放熱に影響します。日陰に入っても、風が弱く湿度が高ければ、熱を逃がしにくい状態は続きます。
休憩には、新たな熱が生まれるのを抑え、体に残った熱を逃がす時間をつくる役割があります。水分補給も欠かせませんが、活動量の調整や休憩、熱を逃がしやすい環境の確保とは別に考えます。
活動後は、日陰や風通しのよい場所で、パンティングや動きが落ち着いていくかを見ます。十分に冷えていない車内や、風通しの悪いクレートへすぐに戻すことにも注意が必要です。
犬の呼吸や動きが落ち着き、回復するところまでが、夏のお出かけに含まれます。
同じ暑さでも、犬によって負担は変わる
同じ気温、同じ道、同じ散歩時間であっても、すべての犬に同じ負担がかかるわけではありません。
熱を逃がしにくい条件
短頭種など呼吸がしにくい犬では、パンティングによって熱を逃がすことが難しくなります。また、高齢犬でも、熱関連疾患のリスク上昇が示されています。[3]
熱の負担が大きくなり得る条件
英国の90万頭以上の診療記録を対象とした研究では、50kgを超える犬や、その犬種・性別の平均より体重が重い犬などで、熱関連疾患のリスク上昇が示されました。[3]
ただし、犬種、年齢、体重、被毛のいずれか一つだけで、暑さへの強さを決めることはできません。骨格、筋肉量、体脂肪、活動の強さなども、犬の体にかかる負担へ影響します。
日によって変わる条件
同じ犬でも、負担は日によって変わります。
食欲が落ちていないか。十分に眠れているか。前日の疲れが残っていないか。呼吸や動きに、普段との違いがないか。
アジリティに取り組む犬を対象とした研究では、犬にも暑熱順化、つまり暑さへ少しずつ適応する変化がある可能性が示唆されています。[4]
対象が活動的な犬であるため、すべての家庭犬へそのまま当てはめることはできません。しかし、涼しい日が続いた後の急な暑さや、梅雨明け直後などに、普段より慎重に判断する理由にはなります。
夏のお出かけで見るべき判断基準
犬との夏のお出かけは、「出かけてもよいか」だけで判断するものではありません。
出発前に環境と犬の状態を見て、活動中に負荷を調整し、活動後に回復を確かめます。
外出前
環境・活動・その日の犬を重ねて見る。
気温、湿度、日差し、路面の熱、風、日陰の有無を見ます。途中で休める場所があるか、直前まで涼しい日が続いていなかったかも判断材料です。
次に、長く歩くのか、坂道を進むのか、走ったり遊んだりするのかを考えます。同じ場所でも、活動内容によって負担は変わります。
最後に、食欲、呼吸、動きに普段との違いがないか、前日の疲れが残っていないかを見ます。
判断は、行くか、行かないかの二択ではありません。時間を短くする。場所や活動強度を変える。条件が悪ければ別の日に移す。その日の条件に合わせて計画を調整します。
活動中
予定より、犬の変化を優先する。
パンティングが急に強くなっていないか、歩く速度が落ちていないか、呼びかけへの反応に変化がないかを見ます。興奮して走り続けていないかにも注意します。
犬が動きたがっていても、熱による負担が小さいとは限りません。
早めに日陰へ入り、活動量を落とし、必要であれば予定より早く切り上げます。計画どおりに進めることより、犬の変化に合わせて予定を変えることを優先します。
活動後
活動終了ではなく、回復を確認する。
パンティングが次第に弱まっているか、動きや反応が普段の状態へ戻っているかを見ます。
日陰や風通しのよい場所で休めているか。車内は十分に冷えているか。クレート内に熱や湿気がこもっていないか。帰宅後も異変が続いていないか。
夏のお出かけの判断には、出かけるかどうかだけでなく、続けるか、休むか、切り上げるか、十分に回復したかまで含まれます。
冷却ウェアや暑さ対策グッズの役割
冷却ウェアや暑さ対策グッズを使う場合も、気温や湿度、活動量を踏まえた判断が必要です。環境と犬の状態を見ながら、対策の一つとして取り入れます。
ウェアを選ぶときは、日差しなど外から受ける熱を抑えるのか、体外へ熱を逃がす働きを補うのかを考えます。犬の動きに無理なく追従できるかも重要です。
TAILHIGHのダブルクーリングガードは、PCMによる熱の吸収と、水に濡らした際の蒸発冷却という、異なる仕組みを組み合わせています。
PCMは相変化する際に熱を吸収します。水に濡らして軽く絞ると、水分が蒸発する際の冷却も加わります。
吸水速乾性のあるaerocool®と、動きに追従しやすい4方向ストレッチの軽量生地を採用しています。スヌードは、頭部と首周りまで覆える形状です。
自社の参考測定では、同一個体・同一時点で、スヌード外表面の3地点平均が22.4℃、隣接する露出部表面の3地点平均が32.1℃を示しました。
同一個体・同一時点における外表面温度の自社参考測定であり、犬の深部体温やスヌード下の皮膚温を示すものではありません。
測定条件と結果の詳細
被毛と生地という異なる表面の測定値です。ウェアに残っていた水分量を測定していないため、PCMによる熱吸収と、水分の蒸発による冷却の影響を個別に示す結果ではありません。
撮影時刻、湿度、日射量、風速は記録していません。サーモグラフィーの測定値は表面材質や撮影条件の影響を受け、結果は環境、被毛、着用状態などによって異なります。
冷却ウェアの働きも、湿度、風、活動量などの条件によって変わります。着用後も、地面の状態、犬の呼吸や動き、休憩、活動後の回復を見ます。
装備は、犬に無理をさせるためのものではありません。その日の環境と犬の状態に合わせて使います。
よくある質問
犬の散歩は何℃から危険ですか?
一律の気温だけで決めることはできません。気温に加えて、湿度、日差し、地面温度、活動量、その日の犬の状態を合わせて判断します。
夏の散歩は朝や夕方なら安全ですか?
日中より負担を抑えやすい時間帯ですが、必ず安全とは限りません。夕方でも路面に昼間の熱が残り、朝でも湿度が高い場合があります。
湿度が高い日は、なぜ犬に負担がかかるのですか?
湿度が高いと、パンティングによる蒸発冷却が働きにくくなるためです。同じ気温でも、体にたまった熱を逃がしにくくなります。
暑い日の散歩や運動は、どの程度までなら可能ですか?
一律の時間や距離では決められません。活動の強さと、活動中の呼吸や動きの変化を見ながら、休憩や切り上げを判断します。
散歩や運動を終えれば、暑さの心配はなくなりますか?
運動を終えた後もしばらく、体温が上がり続ける場合があります。活動後は、呼吸や動きが落ち着いていくかを見ます。
冷却ウェアを着せれば、暑い日でも安心ですか?
冷却ウェアを着せても、それだけで安全とは判断できません。気温、湿度、地面温度、活動量、休憩も合わせて考えます。
まとめ――夏のお出かけを、犬の体に合わせて整える
犬の暑さは、外から受ける熱、体内で生まれる熱、体外へ逃がす熱のバランスによって変わります。
出発前の環境、活動中の負荷、活動後の回復までを見ながら、時間、場所、活動量を調整します。冷却ウェアなどの装備も、その日の条件に合わせて使います。
夏のお出かけは、ただ避けるものでも、装備だけで乗り切るものでもありません。
その日の環境と犬の状態に合わせて、時間、場所、活動量を調整することが、暑い季節にも、愛犬との散歩やアウトドアを無理なく続けるための土台になります。
主な参考資料
- “Dogs Don’t Die Just in Hot Cars—Exertional Heat-Related Illness (Heatstroke) Is a Greater Threat to UK Dogs.” Animals, 2020.
- “Post-exercise management of exertional hyperthermia in dogs participating in dog sport (canicross) events in the UK.” Journal of Thermal Biology, 2024.
- “Incidence and risk factors for heat-related illness (heatstroke) in UK dogs under primary veterinary care in 2016.” Scientific Reports, 2020.
- “Body Temperature Regulation in Domestic Dogs After Agility Trials: The Effects of Season, Training, Body Characteristics, Age, and Genetics.” Journal of Experimental Zoology Part A, 2025.
- “Pathophysiology of heatstroke in dogs—revisited.” Temperature, 2017.
- 環境省「暑さ指数(WBGT)について学ぼう」
※本記事は、犬との夏の散歩やお出かけにおける、一般的な予防と観察の考え方を紹介するものです。個別の診断や治療を目的とするものではありません。犬の体調に異変が見られる場合は、記事内の判断基準だけで様子を見続けず、獣医師へ相談してください。