ザックを下ろすと、ジーナも立ち止まる。
さっきまで雪を掻き分けていた足が、すっと止まる。
雪を払う音だけが聞こえる。
おやつを受け取り、静かに待つ。
再びザックに手を触れると、体がわずかに反応する。
やがて、落ち着きがなくなり、あたりを行ったり来たりする。
滑り出す直前、ほとんど吠えないジーナが突然声を上げる。
十勝を拠点に、氷点下20℃の冬山へ

午前二時に家を出る日もある。
仲間と合流する場所に合わせて、出発の時間が決まる。
スノーボードの道具を積み、山へ向かう。
近い山でも一時間半から二時間。
遠ければ四時間半ほど車を走らせる。
暗い道を進み、山に近づくにつれて、稜線がかすかに浮かび上がる。
晴れの日は、冷え込みがいっそう厳しい。
十勝の冬は、よく晴れる。
そして、よく冷える。
氷点下二十度になることもある。
バックカントリーで重ねた、愛犬との七年

山に入るようになって、七年になる。
休憩に入る時も、滑り出す時も、
いつの間にかタイミングが揃うようになった。
ジーナの体力は確実に落ちてきている。
ときどき雪から足を上げる仕草も見せる。
それでも、山に入れば最初は変わらず雪に突進する。
尻尾をぶんぶん振り、行ったり来たりを繰り返す。
七年目の冬も、同じように進んでいる。
冬山での行動と判断

この冬も、バックカントリーに入る。
仲間と登り、同じ斜面を滑る。それを状況に合わせて繰り返す。
山頂が目的になるとは限らない。
その日の雪や斜面を見ながら、進む方向を決める。
ハイシーズンは、止まっている時間が長いほど体が冷える。
風をしのげる場所で手早く整え、指先がかじかむ前に、再び歩き出す。
休憩に決まった回数はない。
春になると、同じ山でも時間の流れが変わる。
立ち止まる時間が長くなり、歩幅もゆるむ。
愛犬と冬の山に入る日の装備と準備

愛犬とバックカントリーに行く日の準備はいつもより多い。
おやつやトイレ袋のほかに、
ガーゼや伸縮テープもザックに入れる。
脚の踵を切ることがあるから。
靴を履かせてみたこともあるけれど、
途中で脱げたり、硬い雪で滑ったりしたから、
いまは履かせていない。
寒さの厳しい日は、重ね着をする。
体を覆うボディースーツでパウダースノーを防ぎ、ダウンはザックに入れておく。
休憩のときに羽織らせる。
それでも雪は入り込み、
下山後に濡れた服を脱がせる。
雪上で、ジーナはほとんど水を飲まない。
好きなように雪を食べる。
運転席に顔を向けたまま

下山して、車に戻る。
ドアが閉まると、ジーナは静かに体を丸める。
運転席に顔を向けたまま、やがて目を閉じる。
エンジンの振動が続く。
帰りの車窓には雪が光る。
重ねた時間の先に

もうすぐ七年目の冬が終わる。
立ち止まる回数は、以前より増えた。
足取りも、少し重くなっている。
それでも稜線の上には、深い青が広がっている。
十勝晴れ、という言葉がある。
「どの季節よりも濃くて深い青色の空と、ピンと張ったような澄んだ空気はとても気持ちがいいです。」
その青の下で、また山に入る。